Creepy Nuts『Case』 日本語ラップの影響が最も色濃く出ている、にも関わらず今までで一番聴きやすい傑作!

2021年10月31日Hip-Hop

9/1(水)にCreepy Nutsの新作『Case』がリリースされました。昨年の『かつて天才だった俺たちへ』からは約1年ぶり、フルアルバムとしてはメジャー1stアルバム『クリープ・ショー』から3年ぶりの2作目になります。

全体を聴いた感想としては、マジで良かったです。これまでのクリーピーのアルバムは好きな曲とそうでない曲が半々ってことが多かったんですが、本作はほぼ全曲好きでした。

アルバムとしての完成度の高さは、僕の中でのフェイバリットだった『よふかしのうた』を超え、自分にとっては本作が最高傑作に成り変わりました。

カップ麺だと思って食べたら名店の味

一曲目の『Lazy Boy』はカップスターCM用に書き下ろしたもので、曲の長さもジャスト3分となってますが、それ以外の曲も平均して大体3分くらい。アルバム全体に手軽さ、聴きやすさが通底しており、それは強く意識されているのかなと感じました。全体として聴きやすいのだけど、R-指定の内省的なリリックはしっかりと入ってくる。まさにカップ麺だと思って食べたら名店の味だったみたいな満足感があります。

今回はDJ松永のトラックメイキングの幅がとても広く、それに呼応するようにR-指定の多彩なフロウが引き出されています。これまで得意としてきたRockやFUNKなものから、TRAP、ボサノヴァ、オールドスクールなクラシックスタイルまで。R-指定は曲ごとに色んな引き出しを開けて、様々なラップのスタイルを憑依させており、彼のラップオタクぶりが音楽性として嘗ないほど表出してるなと感じました。

ちなみに松永さんは制作時、覚醒期に入っていたそうです。

松永:3か月ぐらい前に曲を作るのが楽しくてしょうがない、みたいな病気にかかって、仕事中も早く家に帰って曲作りたいとか、曲を作りたくて寝たくないって思っちゃったんですよね。自分の“かっこいい”の価値観の幅が広がるのが楽しくて。

R-指定:「Lazy Boy」で、今の俺らの忙しさを表現しようってなった時に、6~7曲デモを送ってくれたのが始まりかも。“より取り見取りやん”って思ってたら、それから週に1個、1日に2個とトラックがくるようになって…。あの時の松永さん、めちゃめちゃ頼もしかったです。

https://ananweb.jp/news/371058/から)

彼らの現在のスケジュールで、1日に2個もデモ案を送っていたというのには驚かされます。しかしランナーズ・ハイと言われれば納得の各曲の完成度、また忙しさの中で曲作り自体がリフレッシュになっていたのだとすれば、巧みさすら感じるこのアルバム全体の肩の力の抜け具合も得心がいきます。

アルバム1枚通してヴァラエティ豊かで、飽きずにサラッと聴ける、そしてまたリピートしたくなる。そんなループを自然と誘発する傑作『Cage』めちゃめちゃオススメです!と全体の総評としてはこんなところなのですが、今回の作品、かつてないほどR-指定が自身のルーツを晒していたのが非常に興味深かったので以下、その辺り詳しく掘り下げていきます。

R-指定の日本語ラップにおけるルーツ

本作では日本語ラップにおけるR-指定のルーツを強く感じる箇所がいくつかありました。お気に入りの3曲に絞って解説します。

風来

冒頭の808ビートが格好いいですね。全体としてこの低気圧めな空気感、好きです。この曲は始めに聴いたときに降神の「暴風雨」を思い出しました。

降神は2002年に結成された、なのるなもない、志人によるヒップホップユニット。なのるなもないの神秘的ですらあるプリミティブなフロウと、志人の知的なライミングで、アンダーグラウンドで絶大な人気を博したユニットです。「暴風雨」は彼らのクラシックの一つ。

風来坊と暴風雨ってなんか言葉の響きも似てますしね。トラックの雰囲気も似てるんです。そして何より、R-指定のサビにおける「ウ〜ララ、ラ〜ララ〜」って誦じてる部分、めちゃめちゃ"なのるなもない"みがあります。

R-指定は、結構ことあるごとにメディアで降神の名前を出してます。彼の中で過小評価されてるラッパーとしてあって、その歯痒さがあるのかな。

暴風雨は公式の動画が無かったので、R-指定がラジオで紹介してた曲を

のびしろ

この曲は、アルバム中最も陽に振り切った楽曲となっていて、歌詞も明るいです。そしてこの曲のR-指定、ラップもそこそこに、めちゃめちゃ歌ってます。

Creepy Nutsの楽曲は元々サビに、ほぼほぼメロディが付いていて、それが彼らのキャッチーさに繋がっているのだと思いますが、この「のびしろ」は、にしても歌いすぎというか、下手するとJ-POPと揶揄されかねないほどです。僕は最初に聴いた時に面くらいました、彼らは何故ここまで振り切ることが出来たのか。それには般若の影響があると感じます。

R-指定の対談本「Rの異常な愛情 – 或る男の日本語ラップについての妄想 -」では、彼が影響を受けてきたラッパーについて多く語っていますが、般若からの影響は絶大で、その傾倒ぶりが窺えます。般若の引き出しの多さ、そしてどんなスタイルでも必ず"行き切る"姿勢に感銘を受けたようです。

R-指定は、般若の歌について以下のように言及しています。

R-指定 : そして"圏GUY"〜"素敵なTommorow"は、般若さんのメロディアスな側面、歌心の部分ですね。それは長渕さんの影響もあると思うし、初期からその部分は作品に現れていて。でも、00年代の初中期の日本語ラップってメロディ禁止、サビ禁止だったじゃないですか。

インタビュアー : 歌サビ、歌フロウはあまり評価されなかったし、それをやると「J-POPに寄った」と非難されたり。


R-指定 : そういう謎の法律が幅をきかせてきたんです。でも般若さんは初期からメロディを使ってたし、"圏GUY"はその第一歩だったと思いますね。且つ、この洋楽でもなければJ-POPでもない、ばりばり日本人節のメロディ感や歌い方は、長渕さんからの影響を般若さん流に消化して形になったんじゃないかな、と思います。

R-指定「Rの異常な愛情 – 或る男の日本語ラップについての妄想 -」より

確かに般若のルーツには長渕剛があり、そのせいか時々ど直球に歌を聴かせる曲があったりします。R-指定は、聴き手に対しダイレクトにアプローチする手段として、般若の歌からインスピレーションを受けているようです。

その片鱗はこれまでにも見え隠れしておりましたが、この曲で最もその部分が前に出てきた感じがします。僕が一番好きな箇所は、「隅田川にかかる♪ 勝鬨橋を渡る〜♪」ていうラスサビの前の部分。R-指定の歌心が最も結実したラインだと思います。

土産話

ホンっとうに名曲…この曲のリリックのように、今の成功を噛み締めながら、昔の苦労を振り返り労うような曲を"バックインザデイもの"と言います。あんなことあったな、こんなことあったな、でもおかげで今の俺らはこうだよな、昔の俺らが見たらどう思うかなと。Creepy Nutsもちゃんと売れて、こんな事もしっとりラップ出来るようになったということは、ファンとしては嬉しい半分、寂しい半分…複雑な気持ちです笑

この曲のラップはフレージングが細かいというか、とにかく意識的にライミングを細かく刻んでいる気がします。普段のR-指定は大体10〜15字ずつくらいの間隔で押韻しているイメージです。彼の本分である頭の中垂れ流しみたいな、私小説的な語りでラップするのは非常に高等なテクニックなんです。反面、この曲は6文字毎くらいに押韻がくる。冒頭「なあ相方 大事になったな」で始まる通り、DJ松永への語りという形でもって綴られた、いわば話し言葉のラップなので、細かいフレージングの方が合うと選択された感じがします。

そういった語りかけるようなラップはKrevaが得意とするところで、また細かく刻んで押韻していく心地よさはDABOが得意とするものです。そのどちらのテイストも感じました。

トラックのかなりエモい感じは、OZROSAURUSやDS455でトラックメイキングを手がけるDJ PMXぽさがありました。サイプレス上野の曲にもありそうなエモさで、何が言いたいかというと、この曲"横浜"ぽい。。。

「かつて天才だった俺たちへ」を経て得た「のびしろ

とにかくアルバムを通して、洗練されている、手の切れるような傑作だという感想でした。先に話した「土産話」のように、過去の自分たちを清算できるほど、彼らは今の自分たちを客観視できているのだなという感じです。そういう視野の広さは、聴き手にエネルギーを必要とさせていた過去作にはないものでした。

自分たちのコンプレックスをあげつらいながらも、"のびしろしかないわ"と前を向く。たりないふたりだった頃には考えられないほど、彼らにしては前向きです。そういった心境の変化は、リリックだけでなく、音楽性にも現れていたと思います。僕が一番大きく感じた変化は、R-指定がルーツを強く前面に打ち出すようになったことでした。

これまでR-指定は度々ラジオや、その他メディアで日本語ラップの啓蒙活動に腐心していました。しかし、彼らが獲得しようとしているリスナー層のレンジを思うと、Creepy Nutsの音楽でそれを行うというのは、マスとコアのバランスを取るのが難しい。そういう苦悩があったのではと思います。

しかし、「かつて天才だった俺たちへ」「サントラ」を経て、その風向きが決定的に変わったのではないでしょうか。彼らが愛し続けた日本語ラップを守りながら、大衆に訴えかける曲を生み出すことが出来た。その自信が本作のある種の余裕、そして更なる挑戦に繋がったのだと思います。

Creepy Nutsという看板において意図的に消されていたであろうメニューを、この『Case』では多く味わうことが出来ました。サラッとしてるけど、辛味も甘味もコクもあって、非常に美味しかったです!

最後に、R-指定が本気の格好良さだけに振り切って作るとこんな感じになるという熱い1曲を紹介。客演だと出しやすいパッションもあるんでしょうね。

Posted by hiro